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 私は新卒から一貫してIT企業に務めている。
IT業界の契約構造とそこに潜む闇について触れたい。

ITの契約形態

 IT事業者は、B2Bでシステムの受託開発や情シス部門の一員として保守・運用を行う場合や、B2C向けにパッケージを販売したりアフターサービスを行ったりすることなどで売上と利益を創出している。その際、顧客との契約時は、主に以下の形態に分かれる場合が多い。

 ①.請負契約・・・・一括での契約であり、成果物責任を伴う。
 ②.準委任契約・・・月払いの契約であり、時間精算を行う(成果物責任は伴わない)。

 主にシステム開発プロジェクトの設計・開発工程などは、コストと期限が明確であるため①の請負契約が採用され、情シス部門への長期的な支援などの場合や、開発プロジェクトにおける要件定義工程などのコストや期間が見通せない場合は、②の準委任契約が採用される。
 私も長年やってきた中で、請負も準委任も両方経験してきたが、IT事業者としては②が好まれやすい。理由として、利益率は高くないが長期的に安定収益が得られ、成果物に対する瑕疵担保責任が発生しないためである。

IT事業者の多重下請け構造

 ITの準委任契約において、常態化しているのが多重な下請け構造である。
下記イメージを例に挙げると、顧客からの元請けの下にさらにA社、B社、C社といった形で存在し、実際のエンジニアはC社に所属しているような状態である。
そして、利益の構造も、売価130万に対し元請けが30万の利益、その下のA社、B社、C社がそれぞれ30万、10万、10万といったように中間マージンという形で利益を得ているような構図である。

 ちなみに私も元請けで発注する場合が多くあるが、下請けが何階層までになっているのかは基本的にわかっていない。そこまで敢えて聞いていないのもある。
あと、IT業界は狭いので、募集をかけた際に同じエンジニアが各社から紹介される場合もあり、それぞれの提示単価から、どの企業がどの程度のマージンや利幅を得ているかががわかったりもする。

小売や卸等の中間事業者との違い

 ITの中間事業者は小売りや卸の中間事業者とも異なる。
小売りや卸は商品を仲介した際にその取引時にマージンが発生するが、ITの準委任契約の場合は、毎月の精算時もこのマージンがそのまま適用される。つまり、毎月毎月この恩恵を受けられることになる。

IT中間事業者の意味

 また、さらに問題なのが、A社、B社、C社は果たして中間マージンを得るだけの価値があるのかどうかという点である。結論から言ってしまうと「ほぼ無い」。
 エンジニアを斡旋し、マッチングを行う際の橋渡しやその後の入場までを見届けると、基本的にその後は特に何もすることが無い。たまにメンターとしてフォローしたりする程度である。なぜなら、実際の実務は元請けの担当者がエンジニアに対し現場で指示・管理することが多いためである(これは偽装請負に当たるので大きな声では言えない)。

なぜIT業界で起きているのか

 なぜ、IT業界はこのような状態なのか。理由として以下が思いつく。

・IT人材難であり売り手市場であるため、自社のリソースが限られている。
 → そのため、他社のリソースに頼らざるを得ない。
・顧客側でもエンジニアの相場観がわかっていない。
 → 適正価格で判断できないため、IT業者優位になっている。
・業界の取り締まりが緩い。
 → 上記の偽装請負に該当しそうなケースは発生しているにも関わらず、放置に近い。

 なお、最近は顧客の中でも、下請けの階層を1社までと指定してくる企業も出てきているし、官公庁の入札などもこの辺りは厳しく確認され、階層構造になっている場合は、その中間業者の必要性を細かく説明する場合もでてきている(私も実際経験した)。このようなケースはあるが、概ね風潮は変わっていないと考える。

日本経済への影響

賃下げの効果

 中間事業者がマージンを多くとる分、負の影響を受けるのはエンジニア個人である。
上記の例を見ると、元請けの100万の原価に対し、C社のエンジニア自体は半分の50万しか受けて取れていない(当然経費分があるのでさらに引かれる)。
 昨今の賃上げという風潮にもかかわらず、そもそもこういった状態により、エンジニア自体の価値が高まらない。そればかりか、賃上げをしても中間業者が最悪搾取して終わりというケースもよくある。
それであれば、日本ではなく海外などに良い人材が流出してしまうことも増えるだろう。

GDPへの重し

 上で書いたとおり、中間業者はマージンに見合った価値を提供していない。企業が支払った金額のうち、このマージン分もGDPに計上される訳だが、その金額に見合った付加価値が生み出されていないという見方もできる。企業側も、本来の適正価格で発注できれば、その分の金額でさらにもっと投資ができる機会が増える訳である。なんとももったいない。それでは、日本の価値は高まらないのは当然のような気もしてきた。ちなみに、日本のような多重構造は海外ではほぼ無いらしい。

国としての対応

 今や米国はドル高でインフレに対し賃金の上昇も伴っており、非常に強い状態である。これには、GAFAMのようなIT企業がけん引してきたのは間違いない。一方日本は、今後そこに追いつけるかどうかの正念場に来ている状態である。意外と見過ごされているが、今回の件は大きな問題ではないかと思っている。それには、政府主導で変に経済のブレーキとならないよう、うまく是正する方向で検討いただきたい。私も中小企業診断士として、これまでの風潮に流されないよう身の回りから改善していきたい。
 

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onda.masashi@gmail.com

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