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日本のGDP

 米国をはじめインフレの実現による経済の成長を果たしている国に対し、日本のGDP成長は大きく遅れている。以前にも述べたが、米国などはGAFAMなどのITのユニコーン企業が台頭し、自国の成長を後押ししている。これに対し、日本ではこのような企業がほとんど発生していない。そういった状況が、日本としてGDP成長速度が高められない一因となっている。

日本のプログラマーの価値認識

 海外ではこのようなユニコーン企業の発生は、ソフトウェアなどのスタートアップから発生するケースが多い。Googleなど創業者自身が「プログラマー」として技術を生み出し、それをサービス化し世の中のニーズに応えるよう起業したことで今日に至る。そういった企業がシリコンバレーを中心に何社も出てきた。 

 したがって、プログラマーに対する価値認識が高く、給与報酬といった面でも日本とは異なる。それをあこがれてプログラマーを目指す人も多いし、単純にイノベーションを起こそうと意欲を持つ人も増えるはずだ。それに対し、日本ではIT業界の中ではプログラマーは末端と見られており、単価も低い。実際に、体制図上も一番下に位置づけられるし、取り換え可能な代替要員という扱いもされる(たとえば、アサイン時はJava言語だけできるかどうかだけが判断基準となっていたりする)。そうすると、そこの地位に意欲を持ち「技術を極めよう」とするプログラマーは減る
日本のモノ作りは、これまで職人と呼ばれる技術者が極めることで成長してきた。IT業界ではそれが起きにくい状態が発生している、といえる。

次に、その原因について考察をしてみる。

原因①:国としてのゆでガエル状態

 かつてのホンダが本田宗一郎という技術者から始まり、大企業化したという歴史がある。ソニーやトヨタなどもそうだ。つまり、現在の日本のモノづくりや日本の経済を成長させ支えてきた基盤は、過去にスタートアップからユニコーンに育て上げてきた彼らの功績である。

 そういった日本の成長を支えたプロセスを忘れてしまっているのではないか。

 よく企業に対し「ゆでガエル」とか「イノベーションのジレンマ」という表現が形容される。これは、一定の成功を収めると現状に満足してしまい、それ以上の変革や改善を行うための動機が失われてしまうことを指す。そして、過去の成功に捉われるがあまり、外部環境の変化に気づけず非連続な成長が行えない状態である。日本としても、同様であったのではないか。そして、それは企業レベルでは難しいため、国レベルで分析して手を打つというアクションが必要だったのではないか。

原因②:国としての投資戦略

 米国のようにプログラマーが起業するスタートアップの発生を、日本ではなぜできなかったのか。
現在は日本でもスタートアップに関する注目は高まっており、孫さんのビジョン・ファンドのような民間での投資も盛んになってきたが、つい最近の話だと思う。本来はそれを政府の補助金などで支援することで、加速させてあげるのが理想であるし、それができてこなかったためと考える。
 
 そして、政府自体がそこに対する「知見や評価を行うための目を持てていなかった」ことも言える。デジタルの可能性に気づき、世界の潮流を早く察知し、そこにすぐに手を打つ。そのための有識者が政府に存在しなかったのは、官僚の体制や選挙の仕組みなど硬直化した国の組織構造などに起因するのだろうか(そこまで深堀はできていない)。

 いずれにしろ、現在は経産省を中心にラピダスへの投資など、大企業への支援は機動的にできてきていると思うが、スタートアップからユニコーンになる企業(または個人事業主)は「最初は中小企業」である。したがって、中小企業向けの補助金支援の中で、その芽を見極める眼が本来は必要だったのだろう。

原因③:マネジメント偏重主義による影響

 上記に書いた通り、プログラマーとしての地位が低い理由として、日本のIT業界は大手のメーカーの仕組みや建設業のマネジメントを参考にしてきた風潮があると思う。つまり、製造業や建設業の考えを模倣した90年代の手法を未だに最前線で使っているという状況だ。
 
 それにより、会社の組織構造上、管理職を目指すキャリアパスが重要視され、マネジメントが上という認識ができあがっている。その結果、マネジメントとプログラマーとの給与レンジが全く異なり、プログラマーはあくまでそこに至るための入り口のような扱いとなっている。

 情報処理推進機構(IPA)が定めたITスキルスタンダード(ITSS)といったスキル標準でも、プログラマーからプロジェクトマネージャ、システムアナリストといったキャリアパスが通常ルートとして設定されており、プログラマーを極めるとスペシャリストというルートも存在するが、そちらは本流ではないという風潮が当時からある。

原因④:IT業界の「中抜き」構造

1.中抜きの実態

 以前にも下記記事で説明した通り、IT業界の中抜き構造はひどい。「中抜き」とは多重下請け階層の中で中間マージンだけを取得し、実態は何もしない事業者を指す。

 下記の通り、公正取引委員会でも問題視しており、約3割のIT事業者がそれを認識しているとのことだ。しかし、実際の数字は、偽装請負などに関与している引け目や、そもそも上下の商流状況を把握していない事業者が正直な回答をしていない場合も多く、5割程度はあるのではないかと想像する。

(引用)「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書(令和4年(2022年))」(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_sw_03.pdf
※中抜き事業者の内容は、31ページ目以降

 他にも中抜き事業者の状況について、詳細に書かれているので興味があれば下記資料を参照いただきたい。
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_sw_03.pdf

2.中抜きによるプログラマーへの搾取

 このような中抜きが行われる際の対象工程は以下の通りプログラミング工程が中心である。

(引用)「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書(令和4年(2022年))」(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/jun/220629_sw_03.pdf
※上記の内容は、12ページ目

 したがって、中抜きの影響を受けるのは、プログラマー(および設計工程に係るシステムエンジニア)である。そして、中抜きによる影響とは、「実際の受注金額の低下」である。中抜きにより本来受け取るべき分が搾取されるためである。

 その結果、プログラマーの地位の低下やそれを目指す人材の分母の不足や、そこをやり続けてイノベーションを起こそうという人材の流出も発生することにつながる。

対策についての提言

 私が言いたいのは以下2点である。

  • 政府主導でのスタートアップの発掘と育成強化
  • 政府主導での中抜き構造の変革

スタートアップの発掘と育成

 スタートアップに対する中小企業補助金支援に対し、新たなスキームの用意と、審査における来のユニコーン企業の見極めの基準と有識者の設置である。そうするためには、民間も協力の上対応する必要がある。
 また、新たに起業を目指す経営者の育成や、それを全国的にPRし認知向上と機運を高めることもマーケティング視点からは必要となってくる。

中抜き構造の変革

 中抜き業者は主に、人材を斡旋するような人材派遣業を行っている事業者である。
派遣業者は、実は世界で日本が一番多く約4万社ある。2位のイギリス1万社。3位のアメリカ7000社なので圧倒的に多い。

 発注側として、プログラマーを調達する際にこれら業者を利用する。自社にないリソースをそこから調達できるためである。その際、各業者ごとに人材を囲い込んでいるため、派遣会社ごとの競争優位性が発生するため、現在の状態が発生している。
 
 これに対し、プログラマーなどの人材を一元化するプラットフォームを導入することで改善できる可能性がある。すべての人材をこのプラットフォームを介すようにし、マッチングの仕組みも民営化せず共通化する。

 こうすれば、発注者が派遣会社を利用する動機はなくなるため、業者が中間に入る余地をなくすことができる。その結果、人材の流動性が今よりも高まるし、本当に実力のある人材は高単価で引き合いが行われることにつながるため、プログラマーの価値が高まるという構図である。

最後に

 日本のGDPを高めることを本気で考えた場合、これまでの延長線上での改善では難しい。上記で挙げたような、日本自体の文化や体質自体がそうさせている部分もあるため、国がリーダーシップを取り抜本的に変えていかないと絶対に変わらない。
 
 そういった部分に対し、私ができることを考え、可能であれば引き続き提起をしていきたい。

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onda.masashi@gmail.com

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