経営者にとって補助金申請に逆風?(2026/1 行政書士法改正の影響)
1.補助金申請支援は行政書士のみが可能となる?
2025年5月30日に衆議院本会議で「行政書士法の一部を改正する法律案」が可決され、2026年1月1日施行が決定しました。その中に、「補助金申請支援が行政書士の独占業務になる」という話が含まれています。
これまでは、企業経営者が補助金を申請する際、民間コンサル、中小企業診断士、行政書士、税理士などによる支援のもと事業計画書を作成するケースが可能でしたが、2026/1月以降は、行政書士のみ有償で支援を行えるという話になったようです。
なぜこのタイミングで明確化されたのか
今回の決定には以下の理由があるようです。
・社会のデジタル化や補助金制度の拡充により、申請支援の需要が急増し、無資格者による違法・不適切な支援が目立つようになった。
・申請者保護と行政手続きの適正化の観点から、行政書士の専門性を担保し、法令順守を徹底する必要性が高まった。
・日本行政書士連合会や中小企業庁からも、無資格者による申請支援の違法性について公式見解が発表され、法的整理が求められていた。
今後想定される影響
・2026年以降、事業計画書の作成支援などの補助金申請支援を有償で行う場合、中小企業診断士など行政書士資格を持たない士業・コンサルは「経営助言」や「フィードバック」など間接的な支援のみに制限される可能性があるようです。
ただし、具体的な線引きは公式に出ていないため、たとえば事業計画書の下書きを作成し、それを基に経営者が加筆修正する場合についてもNGなのかは現時点ではわかりません。今後の情報が待たれます。
・仮にそのような制限がされる場合、これまでの行政書士以外の支援者は、自身で行政書士資格を取得するか行政書士と連携し対応するような取り組みに変革していく必要があります。
2.国内の補助金申請企業数が減少する可能性
行政書士の主な業務は以下3点となります。
1.官公署に提出する書類の作成・提出手続きの代理・相談業務
2.権利義務に関する書類の作成・相談業務
3.事実証明に関する書類の作成・相談業務
上記の1.の中に補助金申請時の相談や経営者に代わり代行する業務は含まれています。
しかしながら、企業の事業計画の作成につながるような経営支援業務については本業ではないため、そもそも行政書士としてその領域をメインに行っている事業者は多くありません。
そして、行政書士以外の事業者がこの領域に手を出せなくなり、行政書士のみが補助金申請支援が可能となった場合、需要に対し行政書士の供給力不足により補助金申請を行うことが難しくなり、中小企業による補助金申請数が減少することが危惧されます。
これは、中小企業にとって設備投資等による投資機会を失うことにつながりますので、企業の付加価値額の増加や生産性向上への阻害要因となります。その延長線上には、国のGDP低下という国レベルでの問題になることを意味しています。
3.減少する申請企業数のフェルミ推定
では、仮に前述の通り、「行政書士以外が全く補助金申請支援に関われなくなった場合」、どの程度の企業が申請できなくなると考えられるでしょうか。
以下はフェルミ推定により、ある程度の仮説に基づいて影響を試算した結果となります。
結論から申し上げると、年間7〜11万社(全体の40〜60%)が補助金申請を断念すると推定されます。
推定方法は、①年間補助金申請企業数の算出、②行政書士のキャパシティ、⓷改正後の機会損失の考慮、④申請企業数とのギャップ算出、というステップで実施しました。
ただし、計算にはいくつかの仮定に基づいていますので、あくまでご参考までとなります点ご了承ください。
行政書士法改正による
中小企業補助金申請への
影響分析
2026年1月1日施行による影響の定量分析
フェルミ推定による補助金申請断念企業数の推定
2025年6月8日
現在の補助金申請状況と支援体制
現在の支援者構成
主要補助金制度の申請実績
現状分析のポイント
- • 現在は多様な専門家が補助金申請支援を提供
- • 行政書士による支援は全体の35%(約6.3万件相当)
- • 競争環境により価格とサービス品質が最適化されている
- • 中小企業の申請実施率は全体の5.4%にとどまる
行政書士の供給キャパシティ分析
供給キャパシティの算出プロセス
供給と需要の比較
地域偏在による影響
供給キャパシティの課題
• 地域偏在: 行政書士は都市部に集中、地方での支援不足
• 専門性不足: 業種別専門知識を持つ行政書士の限界
• 価格上昇: 独占化により20-30%の料金上昇予想
• 実質的制約: 理論値と実際の対応可能数に大きなギャップ
法改正による影響の定量分析
地域格差
専門性不足
価格上昇
価格影響分析
地域別影響度
影響の連鎖構造
重要な影響要因
• 数値上の供給余力: 理論的には需要を満たす
• 実際の制約: 地域・専門性・価格の三重苦
• 特に深刻な影響: 地方の小規模事業者
• 競争環境の喪失: サービス品質低下リスク
補助金申請断念企業数の推定結果
影響の内訳
改正前後の比較
深刻な経済影響
中小企業の成長機会を大幅に制限し、地域経済の活性化を阻害する可能性が高い
4.最後に
このように補助金申請支援業務を行政書士の独占とした場合、申請を希望している企業にとってタイムリーな申請を阻害する可能性を秘めた制度改正といえます。
目的として「不正な支援を行う企業を取り締まりたい」という趣旨はわかりますが、補助金申請の入口部分を一律で規制するという方法しか手段は無かったのでしょうか。多くの支援企業が、中小企業の成長を考え、これまで真っ当に支援をしてきた事業者だと思います。したがって、それら一部の事業者を排除するため全体に対し機会を制限するよりも、本来は審査の時点でしっかりチェックしそこで対処するというのが本筋かと思います。
なお、その分、経営者自身が事業計画書の作成を行う機運が高まるという利点はありますが、事業計画書を書いたことがない経営者は多いため、その分のハードルを考えると効果は限定的かと思われます。
また、そういった支援の際に、行政書士が企業の経営方針に基づき戦略や財務的なアドバイスを専門に行えるのでしょうか。むしろ、サービスレベルの低下や独占による手数料の高騰といった経営者にとってデメリットの方が大きいのではないでしょうか。
よって、何らか対策を明示しないことには、日本全体に大きな毀損を招く恐れがあります。せっかく、政府として中小企業を支援するため、多くの予算を確保し企業に行き渡らせる責務がある中で、逆行するような改正がされることに疑問が湧きます。政府として申請企業数の減少といった負の影響の見立てはあるのでしょうか。穿った見方ですが、補助金予算が余った場合、その分が天下り等の利権に利用されてしまうといったことが無いか、という点も気になります。
参院選もありますが、今が日本の失われた30年を脱却できる最後のチャンスだと思っています。
以上が、筆者がこれまでの情報で感じた所感です。これが現実にならないことを祈ります。
以上
投稿者
onda.masashi@gmail.com