「AIを使えば提案書も申請書も一発で書けるんでしょ?」そう思われる方も多いのではないでしょうか。実は、この問いへの答えは「半分Yes、半分No」です。AIは確かに強力な武器ですが、使い方と役割分担を設計しなければ、その力は半分も引き出せないのが現実です。

2026年1月から2月にかけて、金融庁とSIGNATEが共催する「第4回金融データ活用チャレンジ」に個人参加しました。建設業10社の財務データをもとに、各社の経営課題と成長戦略を提案するWord文書(1社あたり最大15,000字・A4 10ページ)を作成するというコンペティションです。このプロジェクトで試行錯誤した経験から、AIと人間がどう役割を分かち合えば高品質なドキュメントが生まれるかについて、お伝えしたいと思います。

補助金申請書の作成、事業計画書の策定、経営改善レポートの仕上げ――「書類仕事」は中小企業経営者にとって長年の悩みです。今回の経験が、AI活用の具体的なヒントになれば幸いです。

① コンペの概要

まず「どんなコンペなのか?」という疑問にお答えします。

第4回金融データ活用チャレンジ」は、データサイエンスやAI技術を金融・経営の現場に応用することを目的としたコンペティションです。参加者には、建設・工事関連の仮想企業10社分の財務データ(損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書など90項目以上)が配布されます。そこから各社の課題を分析し、成長戦略を提案する「経営課題解決提案書」をWord形式で作成して提出します。

評価される視点は5つ――「1. 全体構成(過去から未来への論理的接続)」「2. 地域性(所在地域の特性を踏まえた提案)」「3. 業界特性(販路・商流の理解)」「4. GX/DX対応」「5. 需要減退・人材不足対応」です。10社の所在地は北海道から高知まで全国に分散しており、各地域の市場環境や行政施策を踏まえた提案が求められました。まさに、中小企業診断士が実際のコンサルティング現場で行う業務そのものです。

「それをAIで書こうとした」わけですが、単にAIに丸投げしたわけではありません。ここが本稿の核心です。コンセプトは「戦略コンサルが実行するであろう業務フローをAIで再現する」こと。SWOT分析・クロスSWOT・PEST・5フォース・VRIOといった専門フレームワークをナレッジとしてAIに注入し、経営コンサルタントとしての分析品質を担保しながら、複数のAIモデルを組み合わせたパイプライン(一連の流れ)を構築しました。

② どんなアプローチをとったのか――「マルチAI戦略」と6段階のワークフロー

「AIと言っても、ChatGPTに頼んだだけでは」という疑問が浮かぶかもしれません。今回の取り組みはまったく異なります。

採用したのは、複数のAIツールをそれぞれの得意分野に応じて使い分ける「マルチAI戦略」です。ひとつのAIですべてを完結させるのではなく、各フェーズの目的に最適なツールを選び、連携させました。

  • Claude.AI:財務データ(CSV)の整形・前処理
  • Perplexity DeepResearch:業界知識・会社固有情報の調査(ハルシネーション対策)
  • Gemini DeepResearch:地域特性・DX対応・人材戦略の深掘り
  • Antigravity(Claude Code):フォルダ管理、提案書パーツの段階的チェーン生成
  • Gemini Canvas:箇条書きから文章・表・図表を交えたナラティブ構成への整形
  • Google NotebookLM:バージョン間の品質比較・差分評価

そして全体を6段階のワークフローとして設計しました。

①事前準備(財務データを整形しAIが処理しやすいように加工)
②ナレッジベース構築(業界知識・財務データ・地域情報等の外部データの取込み)
③パーツ生成(5段階チェーン方式で論理的に積み上げ)
④マージ・整形(複数パーツを矛盾なく統合しナラティブな文章へ)
⑤自己評価(100点満点の定量スコアで品質チェック)
⑥改善(フィードバックを反映してバージョンアップ)

この6段階を各社9回以上繰り返し、「秘伝のタレ方式」で品質を着実に積み上げていきました。最終的には3回の提出(1月23日の中間・2月2日と2月6日の最終)を通じて段階的に品質を向上させ、10社すべての提案書を文字数・ページ数の要件を満たした状態で完成させました。

③ Human-In-the-Loopとは何か――AIに「任せる場所」と「任せない場所」

これらすべてをAIに任せたわけではありません。
ここで登場するのが「Human-In-the-Loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」という考え方です。

Human-In-the-Loopとは、AIの処理フローの要所要所に人間の判断・検証・修正を組み込む手法です。完全自動でAIに任せるのでも、人間がすべてを手作業でこなすのでもなく、「AIが得意なこと」と「人間が担うべきこと」を明確に設計して協働するという発想です。

今回のプロジェクトでは、人間が介在しなければ品質が保てなかった場面が具体的に3つありました。

【場面1】因果関係の推論に関する採用判断
AIが財務データから「受注残高は増えているのに利益が減っている」という事実を発見し、「仕事がないのではなく、安く請けすぎている(原価管理の問題)」という診断を導き出しました。この推論が論理的に妥当か、提案書の柱として採用すべきかの最終判断は人間が下しました。

【場面2】施策の取組優先度の判断
今回、AIは企業の問題・課題を洗い出し、その課題に対して具体的な施策を作成する部分を担いました。その際、施策は短期的に実施可能な取り組みや、社内や組織風土を変えていくような数年単位の取組が並列で提案されてきました。そこに対し、診断士の立場から見た場合、「いかに経営者が明日からでもすぐに取り組めるような施策と思ってもらえるか」が経営診断では重要なポイントとなります。そのため、短期で即効性があるテーマを重要視するようなストーリーへ軌道修正をしました。

【場面3】経営者の「思い」を汲むという政治的配慮
有価証券報告書に記載された経営理念やビジョンから経営者の「思い」を読み取り、「既存の経営陣を否定しない」形で改善案を提示する。10社のうちある企業では既存の中期経営計画をベース目標、改革案をストレッチ目標とする二段構えを採用しました。こうした人を動かすための配慮は、現時点ではAIが最も苦手とする領域です。

④ 苦労した点・工夫した点――5つの壁と突破口

順風満帆ではありませんでした。特に手こずった課題と、その対処法をご紹介します。

壁① AIが文字を削りすぎる問題
フィードバックして修正を依頼すると、指示していない箇所の文章まで削ってしまい内容が薄まる現象が頻発しました。解決策は「まず文字数制限を外して書かせ、最後に人間が削る」という順序の逆転です。最初から制約を与えると品質が下がることを学びました。

壁② 改善するほど別の箇所が劣化するリスク
9バージョン以上の反復改善を繰り返すうちに、「直したつもりが別の箇所が悪くなっている」という事態が起きました。Google NotebookLMでバージョン間を比較分析し、品質の後退箇所を客観的に検出するフローを確立することで解決しました。

壁③ ハルシネーション(AIの事実誤認)への対処
「受注残高42億円(+15.4%)」「労務費上昇率4.7%」などの具体的数値や、「北海道新幹線の8年延期」「ラピダス」などの固有名詞については、AIの出力を原データと照合する「ダブルチェック」を徹底しました。Perplexity DeepResearchでソースの信頼性を担保しつつ、最終確認は人間が行いました。

壁④ 評価プロンプトの精度不足
品質の自己評価プロンプトを3回改訂しました。最初はA/B/Cの3段階評価でしたが判断が粗すぎてフィードバックに使えませんでした。最終的には100点満点・評価者ペルソナを「大手銀行支店長+経営コンサルタント+自身が経営者でもある人物」と細かく設定することで、実用的な評価ができるようになりました。

壁⑤ API課金の増大
10社×9バージョン以上の反復改善は、想定以上の課金を招きました。手順書の「ジャスト・イン・タイム読み込み」(実行直前に該当ステップの手順だけをAIに渡す方式)や、企業ごとのコンテキスト分離で最適化しましたが、品質追求のためのコストは避けられませんでした。これは「AI活用にも投資判断が必要」という経営的な教訓でもあります。

⑤ 教訓――AIと人間の境界の設計こそが価値

このプロジェクトを通じて得た最も重要な教訓を、率直にお伝えします。

AI成果物の品質は「高性能なLLM + 正確なRAG + 人間によるフィードバックループ」の三位一体で決まります。

それぞれの役割はこうです。

  • LLM(大規模言語モデル):論理的構造化・因果関係の推論・戦略立案・文章生成を高速かつ大量に処理
  • RAG(外部知識の検索・注入):正確な業界知識・地域情報・財務指標を提供し、ハルシネーションを防止
  • 人間(Reviewer Agent):統合判断・政治的配慮・正確性検証・採用/不採用の最終決定

「AIにすべてを任せれば品質が上がる」は誤りです。一方、「人間がすべてを手作業でやるべき」も非効率です。「人間の判断が最も価値を生む場面」に人間のリソースを集中させ、それ以外はAIが処理する協働モデル――これが、AI時代のドキュメント作成の核心です。

中小企業の経営者の方に置き換えれば、補助金申請書の作成でも全く同じことが言えます。AIは事業の説明や市場環境の記述、数字の整理を高速に行えます。しかし「この補助金でなぜ自社がこの事業をやるのか」という経営者の熱意と文脈は、人間にしか語れません。AIが書いた文章に、あなた自身の言葉と判断を乗せることで、初めて審査員の心に届く申請書になります。

⑥ 誰でも挑戦できる環境がある――ただし、AIが民主化されても人間の価値は変わらない

「でも自分にはAIを使いこなすスキルがない」という声が聞こえてきそうです。正直にお伝えすると、今回のプロジェクトで使ったAIツールの多くは、特別なプログラミングスキルがなくても使い始めることができます。Claude.AIやPerplexityはブラウザ上でチャットするだけ、Google NotebookLMはPDFやWordファイルをアップロードして質問するだけです。

AIツールへのアクセスは、以前に比べて格段に開かれています。挑戦するためのハードルは、確実に下がっています。

ただし、ここで強調したいのは「誰でも使えるからといって、誰でも同じ品質のアウトプットが出るわけではない」ということです。今回のプロジェクトで10社分の提案書が高い品質に仕上がった理由は、ツールの操作技術ではなく、「どんな問いを立てるか」「何を検証するか」「どう統合するか」という、人間の介在があったからです。

AIの民主化は、人間の不要化を意味しません。むしろ専門家の知見をより多くの人に届けるための橋渡しとして、AIが機能するのだと考えています。

まとめ――テクノロジーが開く、中小企業の新しい可能性

ここでコンペの結果についても触れておきます。
最終的に385人中21位という結果となりました。審査自体も当然AIで行われました。
コンペの参加者は主に金融機関の方が多かったため、診断士のプライドとして本当は10位以内を目指していました。そのため、悔しい結果となりましたが、上位約5%に食い込めたという点では評価できるかと思います。
実際にコンペに提出した提案書(うち1社)がこちらです。→ 提案書12044.docx

今回のSIGNATEコンペティションの経験は、中小企業の経営支援に直結する示唆を与えてくれました。

日本の中小企業が直面する課題――生産性向上、人材不足、中小企業DX推進、補助金活用――これらすべてに、AIとの協業は有効な処方箋となり得ます。専任のコンサルタントを雇うリソースが限られた中小企業にとって、AIは「24時間稼働する分析パートナー」として機能する可能性を持っています。農業法人化の申請書、スマート農業導入の事業計画、製造業の経営改善レポート――いずれも、AIと人間の適切な役割分担によって、品質と効率を同時に高めることができます。

「一発でいいものができる」という幻想ではなく、「試行錯誤を正しく設計すれば、AIとともに高い品質に到達できる」という現実を、今回のプロジェクトは教えてくれました。反復改善(PDCAサイクル)、ナレッジの体系化、Human-In-the-Loopによる品質保証――これらは、AIを使わない従来のコンサルティングでも普遍的に重要な原則です。AIはその原則を、より速く・より広い範囲で実行できるようにする加速装置といえます。

ご相談・お問い合わせ

補助金申請書や事業計画書の作成、経営課題の分析・改善戦略の策定において、AIを活用した支援のご相談を歓迎いたします。「うちの会社でも使えるのか?」「何から始めればいいか?」という段階からでも、お気軽にお声がけください。リヴァーヴ・コンサルティングは、中小企業・農業法人の皆さまが新しい一歩を踏み出すお手伝いをいたします。

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