日本の農業は今、歴史的な転換点に立っています。結論から言えば、日本の農業経営が「家族経営」から「法人化・組織化」へシフトしていく流れは、国の食料供給を守るために避けられない現実であり、国もそれを強く推進しています。

しかし、それは単なる経営形態の変更ではありません。土地と共に生きてきた「家族の生業」が、効率と生産性を追求する「組織としてのビジネス」へと変革していかざるを得ないという方向性を意味します。そこには、痛みと希望が同居しています。

1.センサスが語る「家族経営」の限界

2025年11月に公開された最新の農業センサス2025データによると、以下の現実を突きつけています。

①.家族経営の静かな撤退:
  過去5年間で、個人経営体は約24.8万も減少しました。これは全体の約24%にあたります。

②.担い手の不在:
 70代のベテラン農家が引退を迎える中、バトンを受け取る30代はその10分の1しかいません。家族だけで農地を守る「家」のモデルは、物理的に限界を迎えています。

③.農地の行方:
 結果として、農地は大規模な法人へと集まっています。20ha以上の経営層が持つ農地が、ついに全体の過半数(51.0%)を超えました。

以上の事実から、「労働人口の激減により、食料自給率を維持するためには『少数で広大な面積を管理する』以外に道がなく、それを可能にするには『家族労働』から『資本(スマート農業)と雇用(法人)』に基づく経営へと、強制的にシフトしていくしかない」ということが改めて突き付けられた形になります。

国はこれを「静かな撤退」ではなく、農業を「国家を支える戦略産業」へと脱皮させるための不可逆的な構造転換と位置づけています。

2.国の方針 = あえて厳しさを伴う「構造改革」

国はこの流れを単に見守っているのではなく、強い意志で「組織化」へと誘導していると考えられます。
以下は、2025年11月に閣議決定された総合経済対策のうち、食料安全保障に関する施策から考察したものとなります。

①.農地と施設の集約
 ロボットトラクターなどが動けるよう、農地を1ヘクタール以上の「メガファーム級」へ作り変える計画が進んでいます。また、集落ごとの施設は廃止され、広域的な拠点施設へと集約されていく方向性が示されています。これらはもはや、個人の手には負えない規模です。

②.スマート農業と生産性
 人手不足を補う切り札であるスマート農業も、高額な投資が必要です。国は農機を「所有」するのではなく、サービスとして「利用(シェア)」する形を推奨しており、これも組織的な運用が前提となっています。

③.「雇用なき農家」への厳しいメッセージ
 象徴的なのが2025年12月19日に公開された「省力化投資補助金(一般型)」の第5回目の公募要領です。
この公募では、「従業員0名の個人事業主が対象外」となりました。さらに「賃上げ」が必須要件となり、国は「家族だけで食べていければよい」という経営ではなく、「人を雇い、給料を上げられる企業」だけを支援パートナーとして選び始めています。

3.課題:置き去りにされがちな「現場の想い」

しかし、この正論の影には、現場農家が抱える切実な課題が残されています。

①.農地集約に潜むハードル
 農地集約していく取り組みは正しい試みですが、一方で、集約するためには農家が所有している農地を交換していく取り組みが必要となりますが、その評価は正しく行えるでしょうか。農地の肥沃度や成分によって適した作物や生産量などが変わるため、その差を正しく評価し交換時の対価に反映する仕組みがまだ未整備と言わざるを得ません。

②.スマート農業の「繁閑」問題
 国は農機のシェアリング(FaaS)を勧めますが、田植えや収穫の適期はどの農家も同じです。「借りたい時に借りられない」リスクがあり、自然相手の農業で本当に割り切れるのかという現場レベルでの運用課題があります。仮に繁忙期に需要が高まることでサービス提供事業者はダイナミックプライシングを採用するでしょうが、利用料が高騰しサービス提供事業者の利益となるだけで根本解決とはならず、本末転倒という結果で終わるというリスクを孕んでいます。

③.法人化への支援不足
 国が「法人化しろ」と示す一方で、そのための啓蒙やそこに至るまでの支援が十分とは言えないのが現実と思われます。たとえば、農家のデジタル化はまだ十分ではありません。40%がデータを活用している報告がありますが、真の意味でデータを用いた生産性を実現しているのは2.9%にすぎません。デジタルへのリテラシーを向上するような施策をさらに加速させる取り組みも必要となってきます。

以上から、「正しい方向」であることは理解できても、そこで生きる「人」の心が置いてきぼりにならないよう、細やかな視点が今こそ求められています。

4.最後に:個人農家はどう向き合うべきか

 法人化と大規模化の流れは、もはや個人の感情で止められるものではありません。
データが示す通り、これは不可逆的な構造転換です。この激流の中で、個人農家が生き残るために必要なこと。
それは、「とりあえず農産物を作れば誰かが何とかしてくれる」という古い思考を捨て去ることが求められます。
農家自らが自律的な経営が行える状態を目指すべきで、その先に自らが法人化するという選択肢が見えてくるという考え方が望ましいと考えます。そのためのヒントを示します。

1. 「保護農政」という幻想からの覚醒
 かつて日本の農業は、「政・官・業(農協等)」のトライアングルによって守られ、言われた通りに作れば所得が保証される時代がありました。しかし、市場を見ずに生産だけを行ってきた結果が、「失われた20年」と呼ばれる農業産出額の低迷です。 厳しい言い方をすれば、「販路も価格決定も他人任せ」にしてきたツケが、今の危機を招いています。 組織にぶら下がっていれば安泰という時代は、とうに終わっているのです。

2. 「耕作者」から「経営者」へ
 今求められているのは、農作業のプロ(耕作者)である以上に、ビジネスのプロ(経営者)への脱皮です。 「なぜ農業をするのか」「誰に何を届けるのか」という経営理念を持たないまま、どんぶり勘定で漫然と作物を育てているなら、それはもはや事業とは呼べません。 個人農家であっても、頭の中は「株式会社」のようにシビアであるべきです。これからは、国や組織の支援を「当てにする」のではなく、自身のビジネスを加速させるために「利用する」という、したたかな自律心が問われます。

3. 小さくても「価格決定権」を持つ戦い方
 巨大な法人とコスト競争をする必要はありません。個人には個人の戦い方があります。 それは、30種〜100種の野菜を作り分け、特定のファン(顧客)と直接つながる「スモール・フードバリューチェーン」のような取り組みです。 市場や組織の言い値で買い叩かれるのではなく、自ら価値を創造し、自ら価格を決める。そうした「強い個」としての自覚を持った農家だけが、この大転換期をチャンスに変え、次世代へとバトンをつなぐことができるのです。

変わるべきは、農地や機械の大きさではありません。農業者自身の意識です。

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